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ゆにわのうたひ

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消えたおもちゃ

夢で喧嘩した相手に朝会うと、何となく気まずい雰囲気になることがあるけれど、それでも大人になれば「あれは夢だったのに...何やってんだろ...」と思い直すくらいはできる。

しかし、子供の頃はそれがはっきり出来ない時があったように思う。
白日夢か夢か、はたまた想像なのか現実なのか.....
しかし体験だけは、あまりにも鮮明なのだ。

あれは僕が5歳くらいの頃だったと思う。

ふと、「そういえば、あのタンスの中に車のおもちゃがあるから、あれで遊ぼう。」と思った。

心の中には両親の衣装箪笥の一番下の引き出しの中にある、全長30センチくらいの黄色いボディに青いボンネット、赤い泥よけとホイールのついたクラッシックカーの鉄製のおもちゃが浮かんだ。

そして、ついこの間それをソファーの上で走らせて、随分長く遊んだことも思い出していた。
鉄製のボディーの冷たい感触も、タイヤのゴム臭さも蘇ってくる。

そうして箪笥の前に座って、喜び勇んでその引き出しを開けた。
「ない。」
もう一つ上の引き出しだったかもしれないと思い、上も開けたがやはりどこにも見当たらない。

記憶を頼りに、この間遊んだソファーの下や、サイドボードの中を探したがやはり見つからない。結局その日は一日中その車で遊んだ部屋を探しまわったが、最後まで見つける事はできなかった。

そうこうしていると母親が帰ってきたので
「お母ちゃん、あの車のおもちゃはどこ?」と聞いた。
が、母親はキョトンとして、一体何の事か分からないと言う。
車の特徴を話してみたがやはり心当たりがないし、小さい僕にそんな大きなおもちゃを買うわけがないでしょう?とも言った。

しかし、僕には釈然としないものが残った。確かに僕には記憶があるし、手触り、匂い、今だって鮮明に思い出せるのだ。ただ確かに、どこにしまったのかだけは思い出せない。

そうして晩ご飯の時、もう一度父親にもその事を聞いた。
父も「知らない。」と言った。
すると、母親がふと何かを思い出して、こんな話をしてくれた。

「そういえばお前が産まれる1、2年前、私の友達が『あなたの子供に...』といって車のおもちゃをくれたっけ。その頃はまだ妊娠すらしていなかったのでどこかにしまっておいたけれど、いつからか見えなくなって忘れていた。そういえば随分見ていないけれど、あれはもう何年も前の事だし、あんなに大きいものなら無くすはずもないのに変だなと思ってたのよ....」

聞いてみると、その車は僕の記憶の車に似ているようだった。

僕は一番下の引き出しでそれを見つけたんだ。ずっとあそこにあったんだよ、と言うと。
そんなはずはないと言って、父親が一緒に見に行ってくれた。

そこには父親の集めていた記念コインや切手等、カメラの部品がぎっしり詰まっていて、とてもそんな大きな物を入れるスペースがなかった。
そして「いつもここは開けているけれど、そんな目立つ色のものは見た事がないよ」
と言われた。



それからも何日か家中を探しまわったけれど、結局二度と見つける事ができなかった。
あまりにしつこいので親も探してくれたが、とにかくここ数年、見かけた覚えがないと言われた。

それから何年か経って中学校の頃、この事を思い出してもう一度くまなく探したが、やはりどこにも見当たらなかった。

未だにはっきりと覚えているのに、あのおもちゃはまだ見つからない。
何故か記憶だけは、異常に鮮明なのだ。
by yuniwauta | 2005-02-15 22:25 | 幽玄閑話

ゆにわ主宰          歌島のひとりごと 


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