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ゆにわのうたひ

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海のはなし

この季節になると、ふと思い出す出来事がある。

僕は尾道からしまなみ街道をひとつ行った『向島』で産まれ育った。
それこそ海は目と鼻の先だったから、夏休み等はほとんど毎日海に行ったものだ。
泳ぐだけでなく、釣りをしたり、海岸で漂着物を拾ったり....海は単に遊び場であるというだけでなく、身近な未知の世界の入り口でもあり、尾道水道を行き交う海外航路のタンカーや、見慣れぬ貨物船などを眺めて、日がな一日過ごしたものだ。

そんな幼少期だったからか、やはり夏はどうしても海に入らないと気が済まない。出雲に来てからは至る所に海水浴のできる浜辺があって、来はじめの年はどこそこの浜がいいと聞けば必ず行って泳いでみたりした。

仕事がそれなりに忙しくなってきた3年前の夏。
あまり休みがとれなかったせいで、この夏は8月に入っても全く海に入れていなかった。やっととれた休みは8月15日、いわゆるお盆のど真ん中であった。
後になって思えば『盆に海に入らない方がいい』と、よく田舎の迷信で言われているのを聞いた事があったが、その夏はとにかくクラゲが出る前に何とか海に入りたいという一心で、すっかりそんな事は忘れていた。
そして、車で少し行ったところにある鷺浦の海岸を目指した。

ここは砂でなく砂利の浜辺で、割と空いているのがよかった。
いつもは何台か車が停まっていて、それなりに泳いでいる人もいるのだが、その日は誰もいなかった。
『やはりお盆だからかな?』とは思いつつも、着替えをして、海に入った。
海が苦手な妻は浜辺で読書中、僕はそのままどんどん沖に泳いで行って、深くなる海底に時々潜ったりしながら、海を楽しんでいた。

2〜30分も過ぎた頃だろうか?
仰向けに浮かんで、くぐもった波の音を聞きながらぷかりぷかりと浮かびつつ、ぼんやりと子供の頃の海を思ったりしていた最中、ふと気付くと周りが随分にぎやかになってきたのを感じた。
子供達の声、親子連れだろうか?ワイワイ、キャッキャと遊ぶ楽しげな声が、波音の合間に聞こえて来た。
『今日は子供が多くてにぎやかだな.....』
と、思った瞬間、ハッとした。
『いや、さっきまで誰もいなかったはずでは!?!?』

そう思って起き上がると、やはり誰もいない。それに、いつの間にか随分と沖の方に流されている事に気付き、焦った..............慌ててクロールをして岸へと向かうが、何かに足を掴まれているような感じでなかなか進まない。(もちろん、焦っていたからではあると思うが....)
それでも何とかほうほうの体で岸辺にたどり着き、一応無事であったので、今この記事を書いている。

『お盆に海に入ったらいけないよ。足を引っ張られるから.....』
とは、誰の話だったのか?
それにしても、その声の楽しげであったことと言ったらなかった。
まるで遠足にでも行くように楽しげな子供達の遊ぶ声。
あのままボーッと浮かんでいたら、はたまたハーメルンの笛吹き男にさらわれた子供達さながら、パクリと空いた海のふちにでも飲み込まれてしまっていただろうか?

そんなこんなで危険ですので、お盆の海水浴はやめましょう、というおはなし。
by yuniwauta | 2008-07-30 22:09 | 幽玄閑話

ゆにわ主宰          歌島のひとりごと 


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